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東京地方裁判所 平成12年(ワ)3456号 判決

原告 A

被告 国

右代表者法務大臣 臼井日出男

右指定代理人 松本真

右同 榎本多喜男

右同 笠原宣

右同 高橋宏之

右同 飯村博宣

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金三〇万円及びこれに対する平成一二年二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要及び争点等

一  本件は、刑事被告人として東京拘置所に入所中の原告が、民事訴訟を提起し、その第一回口頭弁論期日に出廷したいと願い出たのに対し、東京拘置所長がこれを許さず、原告は裁判を受ける権利を奪われたとして、被告である国に対し慰謝料三〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一二年二月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

二  次の事実は、争いがないか弁論の全趣旨により認められる。

1  原告

原告は、平成一〇年五月八日、監禁、傷害致死等事件の刑事被告人として警視庁麹町警察署から東京拘置所に入所し、現在も刑事被告人として東京拘置所新二舎一階四六房に収容中の者である。

2  原告による民事訴訟の提起

原告は、平成一一年一二月二七日、栗原努に対して損害賠償請求を求める訴状及び森野嘉郎外一名に対して損害賠償を求める訴状等を東京地方裁判所宛に発信した。右栗原に対する訴訟は、東京地方裁判所平成一一年(ワ)第二九三九七号事件(以下「別件民事事件一」という。)として、右森野外一名に対する訴訟は、同第二九三九六号事件(以下「別件民事事件二」という。また、別件民事事件一と併せて「別件各民事事件」という。)として、受理された。

3  別件各民事事件に係る期日呼出状の送達

(一) 平成一二年一月一二日、原告に対し、東京地方裁判所民事第二三部ろA係から、別件民事事件一について、口頭弁論期日呼出状が送達され、同月一三日午前七時二〇分ころ、原告を収容する新二舎一階の夜間勤務職員がこれを交付した。

(二) 同月一三日、原告に対し、同裁判所民事第一八部いC係から、別件民事事件二について、口頭弁論期日呼出状が送達され、同月一四日午前七時二〇分ころ、新二舎一階の夜間勤務職員がこれを交付した。

4  原告による出願

(一) 原告は、同月一三日午前一〇時三〇分ころ、補助担当職員に対し、前記3(一)の期日呼出状を添付して、「民事出廷願い」と題する願せんを提出し、別件民事事件一の口頭弁論期日(同年二月一四日午前一〇時〇〇分、同裁判所第六〇七号法廷)への出廷を求めた。

(二) 原告は、同月一四日午前一〇時三〇分ころ、補助担当職員に対し、前記3(二)の期日呼出状を添付して、「民事出廷願い」と題する願せんを提出し、別件民事事件二の口頭弁論期日(同年二月一五日午前一〇時二〇分、同裁判所第六〇九号法廷)への出廷を求めた。

5  右出願に対する東京拘置所長による措置

(一) 東京拘置所長は、前記4(一)の出願につき、取りはからわないことに決定し、原告が収容されていた新二舎一階の舎房の監督業務を担当する主任矯正処遇官法務事務官副看守長三好まさる(以下「三好副看守長」という。)は、原告に対し、同年二月八日午前一〇時三〇分ころ、その旨を告知した。

(二) 東京拘置所長は、前記4(二)の出願につき、取りはからわないことに決定し、三好副看守長は、原告に対し、同年二月一〇日午前九時四〇分ころ、その旨を告知した(以下、この両者を併せて「本件各出廷不許可措置」という。)。

6  その後の経緯

(一) 平成一二年二月二四日、原告に対し、同裁判所民事二三部ろA係から、別件民事事件一について、期日呼出状(同年三月一七日午前一〇時〇〇分、同裁判所第六〇七号法廷)が送達され、同月二五日午前七時二〇分ころ、新二舎一階の夜間勤務職員がこれを交付した。

(二) 同月二一日、原告に対し、同裁判所民事一八部いC係から、別件民事事件二について、期日呼出状(同年三月三〇日午前一〇時二〇分、同裁判所第六〇九号法廷)が送達され、同月二二日午前七時二〇分ころ、新二舎一階の夜間勤務職員がこれを交付した。

三  本件の争点は前記本件各出廷不許可措置が違法であるか否かであり、原告は次のとおり主張しており、被告はこれを争っている。

別件民事事件一の被告栗原は、水戸少年刑務所において服役しており、欠席することが予想され、原告が出廷しないことにより、双方欠席により休止となることが明白であった。また、別件民事事件二に関しても、被告から答弁書が提出されていなかったから同様に休止となることが明白であった。

したがって、原告の出廷を認めなかった本件各出廷不許可措置は、原告の訴訟追行を妨害する違法なものであり、ひいては、日本国憲法三二条の裁判を受ける権利を奪うものである。

第三争点に対する判断

一  東京拘置所長の措置に違法性が認められるか

1  未決勾留は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものである。そして、未決勾留により拘禁された者(以下「被勾留者」という。)は、(ア)逃亡又は罪証隠滅の防止という未決勾留のために必要かつ合理的な範囲において身体の自由及びそれ以外の行為の自由に制限を受け、また、(イ)監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が認められる場合には、右の障害発生の防止のために必要な限度で身体の自由及びそれ以外の行為の自由に合理的な制限を受けるが、他方、(ウ)当該拘禁関係に伴う制限の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障される(最高裁昭和六三年(行ツ)第四一号平成三年七月九日第三小法廷判決・民集四五巻六号一〇四九頁参照)。

2  ところで、原告は、東京拘置所長による本件各出廷不許可措置につき、日本国憲法第三二条に反する違法行為であり、裁判を受ける権利を奪う行為であると主張するので、この点につき検討すると、同条の保障する裁判を受ける権利は、民事事件に関する限り、何人も自ら訴訟を提起することができるという意味で訴えを提起する自由を保障し、反面、裁判所は適式な訴えに対しては裁判を拒絶してはならないことを規定したにとどまるのであって、自ら裁判所に出廷して訴訟追行する自由まで保障したものとは解されないから、原告の同条に違反するとの主張は認められない。

3  もとより、自ら出廷して訴訟追行する自由も、憲法一三条の理念の下、できうる限り尊重されなければならないことはいうまでもないが、それは絶対・無制約のものではなく、公共の福祉による制約に服すべきことは当然である。しかして、前記のとおり、未決勾留は、逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものであり、身体の自由及びそれ以外の行為の自由も一定程度の制限が許容されるものであるところ、民事法廷への出廷は、同法廷が一般に刑事法廷に比べ開放的であり、その押送や警備のために、刑事法廷への出廷に比して多数の職員を動員する必要があること、他方、監獄においては、もともと被収容者の民事出廷に係る業務を予定していないことから、その職員配置等に限界があるといわざるを得ないこと、さらに、民事訴訟においては、訴訟代理人の制度があり、本人が出頭しない場合であっても、訴訟代理人を選任することによって訴訟追行は可能であり、また、費用の関係では訴訟代理人に委任することができない場合には、法律扶助協会の途も開かれていることを考慮すると、拘置所長は、被勾留者の民事法廷への出廷につき、勾留目的を達するため必要な範囲内で、当該民事事件の種類・性質・進行状況、出廷しないことによる不利益、出廷が勾留目的に及ぼす影響、職員の配置の都合、護送の難易等を総合的に勘案し、その出廷の拒否を決する裁量権を有するものというべきである。

4  本件につき検討すると、本件各出願に係る口頭弁論期日がいずれも第一回口頭弁論期日であり、訴状の擬制陳述も可能であったこと、拘置所長において相手方が欠席して休止になると予想できたとの証拠も存しないこと、仮に相手方の欠席が予想されたとしても、前記のとおり、訴訟代理人に事件を委任することが可能であり、その費用については、法律扶助を受ける途が存在していたこと、一般に、刑事法廷に比して開放的な民事法廷への出廷に伴う押送・警護等の人員配置は困難であると考えられること、相手方の欠席が予想される民事訴訟を提起した場合に、拘置所からの出廷を必ず許さなければならないとすれば、勾留目的を達することが困難になると考えられること、以上の点を考慮すれば、本件において、拘置所長が裁量権を濫用し、又はその範囲を逸脱したと認めることはできない。

5  したがって、拘置所長の本件各出廷不許可措置に違法性はない。

二  以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佃浩一 裁判官 石井俊和 裁判官 西村修)

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